自衛のためのサイバー攻撃の仕組み講座(AI時代・エンジニア水準)

区分2 人とアカウントを狙う攻撃★★★

No.06 認証の守りの強さの順番(パスキー・2段階認証・パスワード管理)

ログインの守りには強さの順番があります。この単元は、その順番を1つの比較表にまとめて、「なぜその順番か」を説明できるようにする回です。以降の単元は、強さの話ならこの表を指します。数字や対応状況は2026年10月時点のものです。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 強さの順番(この講座の比較表)
  3. 第2章 パスキーを選ぶときの注意
  4. 第3章 パスワード管理の決まり
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 認証の3つの材料 :知っている・持っている・本人である

認証(本人かどうかの確認)の材料は、昔から3種類に分けられます。

2つ以上の種類を組み合わせるのが、多要素認証です。前の単元で出た「2段階認証」は、その代表です。

② フィッシング耐性 :偽サイトに渡してしまっても、使われない性質

NISTの規格(SP 800-63-4)は、フィッシング耐性を次のように定めています。 利用者の注意力に頼らずに、本物ではない相手へ秘密を渡してしまうことを防げること、です。

「気をつければ防げる」ではなく、「気をつけなくても防げる」が基準になっている点が重要です。 疲れている日や、急いでいる日にも効くからです。

③ パスキー :パスワードの代わりになる、鍵のペアを使ったログイン

パスキーは、FIDO Alliance(認証の業界団体)が標準化した、パスワードを使わないログインの方式です。 端末の画面ロックを解く動作(指紋・顔・PIN)で、ログインします。

仕組みの芯は、公開鍵暗号です。 2つで1組の鍵を作り、秘密鍵は端末の中に残し、公開鍵だけをサイトに預けます。ログインの時、サイトが出した問題に、秘密鍵で答えて「持っていること」を証明します。秘密鍵そのものは、外に出ません。

④ 言葉の整理

第1章 強さの順番(この講座の比較表)

① 比較表 必ず覚える

下の表が、この講座で「強さの順番」を言う時の基準です。上ほど強い、という並びです。

順 方式 偽サイトに入力させられても 使い回しの漏れに ログイン済みの印の盗難に つまずきやすい点
1 パスキー(端末固定。セキュリティキー) 使えない 強い 弱い(別の対策が要る) 機器の紛失。予備が要る
2 パスキー(同期) 使えない 強い 弱い 同期元アカウントの守りと復旧手段
3 認証アプリ(TOTP) 中継されると破られる 強い 弱い 機種変更で引き継ぎを忘れる
4 SMSのコード 中継されると破られる 強い 弱い 番号の乗っ取り・転送に弱い
5 パスワードのみ 破られる 弱い 弱い 使い回し

表の読み方の補足です。

○ よくある勘違い:「2段階認証なら、どれも同じくらい安全」
→ 方式で大きく違います。偽サイトに入力させられても使われないか、が分かれ目です
○ 関係する単元:No.04(偽サイトの入口)、No.05(中継で破られる理由)

② 各方式が、偽サイトで働くかどうかの理由 必ず覚える

TOTPやSMSの数字は、どのサイトに向けて入力したのかを、数字自身が持っていません。だから偽サイトに入れても、本物に取り次がれると通ります(No.05で学んだ通りです)。

パスキーは、ログインのたびに、ログインしようとしているサイトのドメインを確認して、そのドメイン用の鍵でしか答えません。 偽サイトのドメインは本物と違うので、そのサイト向けのパスキーは存在せず、答えそのものが作れません。利用者の目での確認も、不要です。

NISTの規格では、これをドメインの結びつけ(検証者名の結びつけ)として挙げています。 WebAuthnという標準の仕様では、この結びつきに使うドメインをRP IDと呼びます。

第2章 パスキーを選ぶときの注意

① 同期と端末固定の違い 必ず覚える

パスキーには2種類があります。

同期パスキーは、管理サービス(GoogleやAppleなど)が、暗号化して複数の端末に配ります。 端末をなくしても、新しい端末で戻せます。便利で、続けやすい形です。

端末固定のパスキーは、その1台から出ません。セキュリティキーの中のものが代表です。 FIDO Allianceは、端末固定のパスキーが最も高い保証を与えるとしています。その代わり、なくすと戻せないので、予備のキーや別の復旧手段が要ります。

どちらを選ぶかは、「何を守るか」で決めます。 普段使いは同期、会社の管理画面やメールの管理者など、乗っ取られた時の被害が大きい物は端末固定、というのが一つの考え方です。NISTの規格でも、最も高い保証水準(AAL3)では同期型を認めていません。

② 残る弱点を知っておく 必ず覚える

パスキーは、偽サイトと使い回しに強い方式ですが、全部に強いわけではありません。

つまり、パスキーにしたあとも、端末の保全(No.05)と、復旧手段の見直しは続きます。 上の研究は、攻撃者に感染させる力が前提です。パスキーの価値を否定する話ではなく、「端末が破られたら、何でも危ない」の一例として押さえます。

第3章 パスワード管理の決まり

① 長さ・組み合わせ・変更頻度の考え方 さらっと

パスワードを使う場合の目安は、NISTの規格(SP 800-63-4)が示しています。

つまり、昔の常識(短くて複雑なパスワードを、3か月ごとに変える)は、今の標準では逆になっています。 長くて、使い回さず、パスワードマネージャーに覚えさせる。これが現在の形です。

② 自分の環境の「塞ぐ順番」(手を動かす例) 必ず覚える

強さの順番を知っても、全部を一度に変えるのは大変です。 乗っ取られた時の被害が大きく、他のアカウントの復旧の入口になっている物から順に、強い方式に替えます。

  1. メールとGoogleアカウント:他のサービスの「パスワードを忘れた」が全部ここに届く。最優先
  2. パスワードマネージャー:全パスワードの入れ物。ここが破られると全部が見られる
  3. 管理画面:サーバー、WordPress、メルマガやLINEの配信ツールなど。乗っ取られると、お客さんへ偽の連絡を送られる
  4. 金融:銀行、決済
  5. その他

Googleアカウントなら、自分の画面で次の点検ができます。

他のサービスは、設定画面にパスキーや認証アプリがあるかを確かめます。対応していなければ、強い方式に対応した別の方法(ログイン時にGoogleアカウントを使うなど)を探します。ただし、サービスごとの対応状況は変わるので、都度、各サービスの案内で確かめてください。

SSHでサーバーに入る場合は、パスワードをやめて鍵だけにする設定があります。これはNo.09(後で出ます)で扱います。

○ 受講生によく聞かれる質問:「パスキーにすれば、パスワードは要りませんか」
→ 多くのサービスでは、パスキーを追加しても、パスワードのログインは残ります。残ったパスワードが弱いと、そこから破られます。パスキーを使い始めたら、パスワードを長く別の物にして、使い回しを消します
○ 受講生によく聞かれる質問:「SMSの認証は使わない方がいいですか」
→ パスワードのみより、ずっと良いです。ただし、より強い選択肢があるなら、そちらへ移します

強さの順番は、パスキー(端末固定)→パスキー(同期)→認証アプリ→SMS→パスワードのみ。分かれ目は、偽サイトに入力させられても使われないかどうか。乗っ取られた時の被害が大きい物(メール・Google・管理画面)から順に替える。

確認問題

問1 偽サイトに誘導されて、IDとパスワードと認証アプリの数字を入力してしまいました。偽サイトは中継型です。パスキーでログインしていた場合と比べて、何が違いますか?

問2 第1章の比較表で、パスワードのみ・SMS・認証アプリ・パスキーを、強い順に並べたものはどれですか?

問3 あなたは、メール・WordPress・LINE配信ツール・銀行の4つのアカウントの守りを強くしたいです。どれから手を付けるのが最も理にかなっていますか?

問4 NISTの規格が示す、パスワードの扱い方として正しいのは?

出典:NIST SP 800-63B-4 Digital Identity Guidelines(https://pages.nist.gov/800-63-4/sp800-63b.html)。パスワードの長さと変更、フィッシング耐性とドメインの結びつけ、SMSの制限、承認のみの方式、AAL3で同期型を認めない点。/FIDO Alliance「Passkeys」(https://fidoalliance.org/passkeys/)。同期パスキーと端末固定の違い、端末固定が最も高い保証という記述。/W3C「Web Authentication」(https://www.w3.org/TR/webauthn-3/)。RP IDによるドメインの結びつき。/Google「パスキーの設定」(https://g.co/passkeys)/感染したパソコン上の同期パスキーの研究についての二次情報:https://www.malwarebytes.com/ja/blog/news/2026/08/googles-synchronized-passkeys-can-be-stolen-in-pass-ta-key-attacks