自衛のためのサイバー攻撃の仕組み講座(AI時代・エンジニア水準)
区分2 人とアカウントを狙う攻撃★★★認証(本人かどうかの確認)の材料は、昔から3種類に分けられます。
2つ以上の種類を組み合わせるのが、多要素認証です。前の単元で出た「2段階認証」は、その代表です。
NISTの規格(SP 800-63-4)は、フィッシング耐性を次のように定めています。 利用者の注意力に頼らずに、本物ではない相手へ秘密を渡してしまうことを防げること、です。
「気をつければ防げる」ではなく、「気をつけなくても防げる」が基準になっている点が重要です。 疲れている日や、急いでいる日にも効くからです。
パスキーは、FIDO Alliance(認証の業界団体)が標準化した、パスワードを使わないログインの方式です。 端末の画面ロックを解く動作(指紋・顔・PIN)で、ログインします。
仕組みの芯は、公開鍵暗号です。 2つで1組の鍵を作り、秘密鍵は端末の中に残し、公開鍵だけをサイトに預けます。ログインの時、サイトが出した問題に、秘密鍵で答えて「持っていること」を証明します。秘密鍵そのものは、外に出ません。
下の表が、この講座で「強さの順番」を言う時の基準です。上ほど強い、という並びです。
| 順 | 方式 | 偽サイトに入力させられても | 使い回しの漏れに | ログイン済みの印の盗難に | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | パスキー(端末固定。セキュリティキー) | 使えない | 強い | 弱い(別の対策が要る) | 機器の紛失。予備が要る |
| 2 | パスキー(同期) | 使えない | 強い | 弱い | 同期元アカウントの守りと復旧手段 |
| 3 | 認証アプリ(TOTP) | 中継されると破られる | 強い | 弱い | 機種変更で引き継ぎを忘れる |
| 4 | SMSのコード | 中継されると破られる | 強い | 弱い | 番号の乗っ取り・転送に弱い |
| 5 | パスワードのみ | 破られる | 弱い | 弱い | 使い回し |
表の読み方の補足です。
○ よくある勘違い:「2段階認証なら、どれも同じくらい安全」
→ 方式で大きく違います。偽サイトに入力させられても使われないか、が分かれ目です
○ 関係する単元:No.04(偽サイトの入口)、No.05(中継で破られる理由)
TOTPやSMSの数字は、どのサイトに向けて入力したのかを、数字自身が持っていません。だから偽サイトに入れても、本物に取り次がれると通ります(No.05で学んだ通りです)。
パスキーは、ログインのたびに、ログインしようとしているサイトのドメインを確認して、そのドメイン用の鍵でしか答えません。 偽サイトのドメインは本物と違うので、そのサイト向けのパスキーは存在せず、答えそのものが作れません。利用者の目での確認も、不要です。
NISTの規格では、これをドメインの結びつけ(検証者名の結びつけ)として挙げています。 WebAuthnという標準の仕様では、この結びつきに使うドメインをRP IDと呼びます。
パスキーには2種類があります。
同期パスキーは、管理サービス(GoogleやAppleなど)が、暗号化して複数の端末に配ります。 端末をなくしても、新しい端末で戻せます。便利で、続けやすい形です。
端末固定のパスキーは、その1台から出ません。セキュリティキーの中のものが代表です。 FIDO Allianceは、端末固定のパスキーが最も高い保証を与えるとしています。その代わり、なくすと戻せないので、予備のキーや別の復旧手段が要ります。
どちらを選ぶかは、「何を守るか」で決めます。 普段使いは同期、会社の管理画面やメールの管理者など、乗っ取られた時の被害が大きい物は端末固定、というのが一つの考え方です。NISTの規格でも、最も高い保証水準(AAL3)では同期型を認めていません。
パスキーは、偽サイトと使い回しに強い方式ですが、全部に強いわけではありません。
つまり、パスキーにしたあとも、端末の保全(No.05)と、復旧手段の見直しは続きます。 上の研究は、攻撃者に感染させる力が前提です。パスキーの価値を否定する話ではなく、「端末が破られたら、何でも危ない」の一例として押さえます。
パスワードを使う場合の目安は、NISTの規格(SP 800-63-4)が示しています。
つまり、昔の常識(短くて複雑なパスワードを、3か月ごとに変える)は、今の標準では逆になっています。 長くて、使い回さず、パスワードマネージャーに覚えさせる。これが現在の形です。
強さの順番を知っても、全部を一度に変えるのは大変です。 乗っ取られた時の被害が大きく、他のアカウントの復旧の入口になっている物から順に、強い方式に替えます。
Googleアカウントなら、自分の画面で次の点検ができます。
他のサービスは、設定画面にパスキーや認証アプリがあるかを確かめます。対応していなければ、強い方式に対応した別の方法(ログイン時にGoogleアカウントを使うなど)を探します。ただし、サービスごとの対応状況は変わるので、都度、各サービスの案内で確かめてください。
SSHでサーバーに入る場合は、パスワードをやめて鍵だけにする設定があります。これはNo.09(後で出ます)で扱います。
○ 受講生によく聞かれる質問:「パスキーにすれば、パスワードは要りませんか」
→ 多くのサービスでは、パスキーを追加しても、パスワードのログインは残ります。残ったパスワードが弱いと、そこから破られます。パスキーを使い始めたら、パスワードを長く別の物にして、使い回しを消します
○ 受講生によく聞かれる質問:「SMSの認証は使わない方がいいですか」
→ パスワードのみより、ずっと良いです。ただし、より強い選択肢があるなら、そちらへ移します
強さの順番は、パスキー(端末固定)→パスキー(同期)→認証アプリ→SMS→パスワードのみ。分かれ目は、偽サイトに入力させられても使われないかどうか。乗っ取られた時の被害が大きい物(メール・Google・管理画面)から順に替える。
問1 偽サイトに誘導されて、IDとパスワードと認証アプリの数字を入力してしまいました。偽サイトは中継型です。パスキーでログインしていた場合と比べて、何が違いますか?
問2 第1章の比較表で、パスワードのみ・SMS・認証アプリ・パスキーを、強い順に並べたものはどれですか?
問3 あなたは、メール・WordPress・LINE配信ツール・銀行の4つのアカウントの守りを強くしたいです。どれから手を付けるのが最も理にかなっていますか?
問4 NISTの規格が示す、パスワードの扱い方として正しいのは?
出典:NIST SP 800-63B-4 Digital Identity Guidelines(https://pages.nist.gov/800-63-4/sp800-63b.html)。パスワードの長さと変更、フィッシング耐性とドメインの結びつけ、SMSの制限、承認のみの方式、AAL3で同期型を認めない点。/FIDO Alliance「Passkeys」(https://fidoalliance.org/passkeys/)。同期パスキーと端末固定の違い、端末固定が最も高い保証という記述。/W3C「Web Authentication」(https://www.w3.org/TR/webauthn-3/)。RP IDによるドメインの結びつき。/Google「パスキーの設定」(https://g.co/passkeys)/感染したパソコン上の同期パスキーの研究についての二次情報:https://www.malwarebytes.com/ja/blog/news/2026/08/googles-synchronized-passkeys-can-be-stolen-in-pass-ta-key-attacks