自衛のためのサイバー攻撃の仕組み講座(AI時代・エンジニア水準)

区分1 攻撃者の考え方と、今の地図★★★

No.01 攻撃者は何を欲しがり、どう動くか(攻撃の流れ)

攻撃者が何を欲しがり、どんな順番で動くのかを、1枚の流れで説明できるようになる単元です。以降のすべての単元が、この流れのどこかに入ります。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 攻撃の流れ
  3. 第2章 攻撃者が欲しがる物
  4. 第3章 AIで何が変わったか
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 攻撃者 :守る側から見た「入ろうとする側」

この講座で「攻撃者」と呼ぶのは、許可なく他人のシステムやアカウントに入り、利益を得ようとする人や組織のことです。 映画のような天才ハッカー1人とは限りません。分業した犯罪グループや、売られている道具を使うだけの人も含みます。

ここで1つ、言葉を分けておきます。

鍵が壊れていても、誰も来なければ被害は出ません。 逆に、鍵が丈夫でも、家の人が玄関を開けてしまえば入られます。

② 攻撃は技術だけで起きない

攻撃というと、プログラムの穴を突く場面が思い浮かびます。 実際には、人をだましてパスワードを聞き出す、設定の甘い入口を探す、といった方法がずっと多く使われます。

次の第1章で、攻撃の流れを見ます。

第1章 攻撃の流れ

① 攻撃の4つの段階 必ず覚える

攻撃の流れは、入る → 居座る → 広げる → 持ち出す・壊すと覚えます。

段階 攻撃者がやること 身近な例
入る 最初の入口から入り込む 偽メールのリンクを押させる。使い回したパスワードでログインする
居座る 再起動しても、パスワードを変えても戻れるようにする 隠しアカウントを作る。ログイン済みの印を盗んでおく
広げる 最初に入った所から、他の機器やアカウントへ移る 1台目のMacから、VPSの鍵や会社のクラウドへ進む
持ち出す・壊す 本来の目的を果たす データを盗む。ファイルを暗号化して身代金を要求する

なぜこの順番なのか。 1回目の入口は、たいてい行き止まりの小さな部屋だからです。欲しい物はもっと奥にあります。

講義で使う時は、「入口は小さいが、奥まで行ける」と説明すると伝わります。

② 攻撃の流れを、公式の枠組みで見る さらっと

攻撃の流れを整理した有名な枠組みが2つあります。

キルチェーンの考え方で大事なのは、どこか1か所でも断てば、攻撃は完了しないという点です。 ただし、段階を飛ばしたり、同時に進めたりする攻撃も多いので、直線の流れとして厳密に当てはめすぎないでください。

この講座では4つの段階で十分です。ATT&CKは、必要になった時に表を引けばよく、今は覚えなくて構いません。

第2章 攻撃者が欲しがる物

① 目的は大きくお金 必ず覚える

攻撃者の目的はいくつかありますが、あなたのような小さな会社に関係が深いのは、お金に直結する物です。

そのほかに、自分のサーバーを他の攻撃の踏み台にされることもあります。 自分は被害者のつもりでも、攻撃の中継地点として使われる、ということです。

② 「うちは小さいから狙われない」は成り立たない 必ず覚える

小さな会社は狙われにくいという感覚は、仕組みから見ると逆です。

攻撃者は、1社ずつ選ぶとは限りません。 弱い入口を機械的に探し回り、見つかった所から入ります。入ってから、相手が誰かを見ることも多いのです。

さらに、IPAの「10大脅威 2026」でも、組織の2位に「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が入っています。 大きな会社を狙う時に、守りの薄い取引先や委託先から入る手口です。小さな会社は、その入口として狙われることがあります。詳しくはNo.12で扱います。

よくある勘違いは、「大事な情報は無いから大丈夫」です。 情報が無くても、アカウントやサーバーそのものに価値があります。

③ 一番弱いのは「人と設定」 必ず覚える

入る段階で使われる入口は、最新の高度な穴より、次のような身近な物が目立ちます。国内外の被害報告でも、だまされる・設定が甘い・更新が漏れる、といった基本の部分が繰り返し原因に挙がります。

これは、守る側にとっては良い知らせでもあります。 高度な技術を相手にするより、基本をそろえる方が効きやすいからです。

第3章 AIで何が変わったか

① 変わったのは「値段」と「速さ」 必ず覚える

AIによって、攻撃の仕組みそのものが変わったわけではありません。 入る → 居座る → 広げる → 持ち出す・壊す、という流れは同じです。

変わったのは、各段階にかかる手間です。

守る側にとっての意味は、「文面がおかしい」「日本語が変だ」といった見分け方が、効かなくなってきていることです。 詳しくはNo.04とNo.13で扱います。

もう1つの変化は、AIそのものが入口になったことです。 AIエージェント(道具を使って自分で作業を進めるAI)に、外から読ませた文章で命令を紛れ込ませる攻撃が出てきました。No.10で扱います。

○ よくある勘違い:「AIで攻撃が全く新しくなった」→ 流れは同じで、手間が下がった
○ 関係する単元:No.02(今の脅威の地図)、No.03(流れを自分の環境に当てはめる)

攻撃は「入る → 居座る → 広げる → 持ち出す・壊す」の流れ。入口は人と設定が多い。小さい会社も、機械的な探索や取引先経由で狙われる。AIで変わったのは手間で、流れは同じ。

確認問題

問1 あなたのVPSに、見覚えのない管理用アカウントが追加されているのが見つかりました。攻撃の流れの4段階で言うと、どの段階の痕跡の可能性が高いでしょうか。

問2 「うちは小さな会社で大事な情報も無いから、狙われない」という意見に、仕組みから答えるとどれが正しいでしょうか。

問3 AIの登場で、攻撃について変わったことはどれでしょうか。

出典: - IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(組織向け順位) https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html - MITRE ATT&CK https://attack.mitre.org/ - Hutchins, Cloppert, Amin "Intelligence-Driven Computer Network Defense Informed by Analysis of Adversary Campaigns and Intrusion Kill Chains"(Lockheed Martin, 2011)