自衛のためのサイバー攻撃の仕組み講座(AI時代・エンジニア水準)

区分1 攻撃者の考え方と、今の地図★★★

No.03 脅威モデルの作り方(守る物・入口・塞ぐ順番)

自分の環境を、守る物・入口・起こりうる攻撃・今の守り・塞ぐ順番の1枚にまとめる方法です。卒業課題の前半そのものなので、この単元で最初の1枚を作ります。区分1の締めくくりです。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 1枚を作る手順
  3. 第2章 塞ぐ順番を決める
  4. 確認問題

第0章 前提知識

① 脅威モデル :「何が、どう壊れうるか」を先に書き出した1枚

脅威モデルとは、自分のシステムについて「何を守るのか」「どこから狙われうるのか」「何が起きうるのか」「どう防ぐのか」を、先に書き出して整理した物です。 専門の世界では「スレットモデリング」と呼び、国際的な宣言文(Threat Modeling Manifesto)では、システムの図を元に、安全性やプライバシーの心配事を洗い出すこと、と説明されています。

家の防犯で考えると分かりやすいです。 窓に鍵を付ける前に、「泥棒は玄関と窓とベランダのどこから来そうか」「何を盗まれたら一番困るか」を紙に書きます。 その上で、お金のかからない順に手を打ちます。

② 4つの問い 必ず覚える

先ほどの宣言文は、脅威モデルの作業を4つの問いにまとめています。

  1. 何に取り組んでいるのか(守る対象は何か)
  2. 何がうまくいかなくなりうるか(どんな攻撃や事故がありうるか)
  3. それに対して何をするか(防ぐ・減らす・受け入れる)
  4. 十分にできたか(点検と見直し)

この講座の1枚は、この4つの問いを、5つの欄に分けた物です。

4つの問い この講座の欄
1 何に取り組んでいるか 守る物 / 入口
2 何が起こりうるか 起こりうる攻撃
3 何をするか 今の守り / 塞ぐ順番
4 十分にできたか 月1回の見直し(区分5で扱います)

③ 似た言葉との違い

第1章 1枚を作る手順

① 守る物を書く 必ず覚える

最初に、「失ったら困る物」を書きます。 パソコンやサーバーそのものより、そこにある物と、そこから出来る事を書くのがコツです。

あなたの環境なら、たとえば次のような物が出てきます。

「その物を失う、または他人に使われると、事業にどう響くか」を一言で添えます。 例:名簿が漏れる → お詫びと信用の低下。LINE公式が乗っ取られる → 友だち全員に偽の案内が届く。

② 入口を書く 必ず覚える

次に、「その物に近づける道」を書きます。 入口には、攻撃者が通る道と、自分や仲間が日常的に通る道の両方があります。

漏れなく書くコツは、守る物を1つ決めて、「これにたどり着く道を全部挙げて」と考えることです。 やり方はAIに頼めば手伝ってくれます。頼み方の例:「私の環境は〇〇と△△です。□□(守る物)にたどり着く道を、攻撃者の目線で挙げて。攻撃のやり方ではなく、入口の種類だけ」。

ただし、パスワード、鍵、利用者の名前や記録の中身は、AIに貼り付けないでください。 環境の名前と構成だけで、脅威モデルは作れます。

③ 起こりうる攻撃を書く さらっと

入口ごとに、「何が起きうるか」を一言で書きます。 攻撃の細かい手口はいりません。区分2〜4で一つずつ仕組みを学ぶので、今は名前と流れで足ります。

No.01で学んだ4段階(入る → 居座る → 広げる → 持ち出す・壊す)のどこの話か、印を付けておくと、塞ぐ順番を決める時に役立ちます。

第2章 塞ぐ順番を決める

① 今の守りを書く 必ず覚える

入口ごとに、いま実際に効いている守りを書きます。 「あるはず」ではなく、実際に確かめた物だけを書きます。

空欄は、そのまま「守りなし」と書きます。 そこが、次の節で順番を付ける対象になります。

② 順番は「被害の大きさ × 起こりやすさ ÷ 手間」で決める 必ず覚える

塞ぐべき穴がたくさん出てきても、全部は同時にできません。 そこで、次の3つで見て順番を付けます。

被害が大きく、起こりやすく、手間が小さい物が一番先です。 たとえば、メインのGoogleアカウントの2段階認証を強い方式にする、控えを取って戻せることを確かめる、といった物は、手間が小さい割に効きます。

逆に、被害が小さく、起こりにくく、手間が大きい物は後回しで構いません。 「捨てる」のも、脅威モデルの大事な結論の1つです。

講師として受講生に話す時も同じです。 「全部やりましょう」では続かないので、順番を付けて渡します。

③ 1枚の形(見本) さらっと

卒業課題で書く1枚は、次のような表になります。以下は書き方の見本で、実際の中身はあなたの環境で書き直します。

守る物 入口 起こりうる攻撃 今の守り 塞ぐ順番
Googleアカウント ログイン画面・届くメール 乗っ取り(入る) 2段階認証あり(方式は未確認) 1:方式を確かめて強くする
顧客名簿 UTAGEの管理画面 アカウント乗っ取り(持ち出す) パスワードのみ 2:2段階認証を入れる
WordPressサイト 管理画面・プラグイン 古い部品の弱点を突かれる(入る) 手動更新 3:更新を自動に寄せる
全データ 暗号化・消去 ランサム(壊す) 控えはあるが戻したことがない 1:実際に戻してみる

最初の1枚は、この程度の粗さで構いません。 区分ごとに仕組みが分かるたびに、書き直していきます。

○ よくある勘違い:「脅威モデルは大きな会社の物」→ 小さな会社ほど、順番を付けることが大事
○ 関係する単元:No.01(4段階)、No.06(認証の強さ)、No.14(控え)、No.15(見直しと初動)

守る物・入口・起こりうる攻撃・今の守り・塞ぐ順番の5欄を1枚に書く。順番は「被害の大きさ・起こりやすさ・手間」で決める。最初は粗くてよい。

確認問題

問1 脅威モデルの最初の欄として、本文が勧めているのはどれでしょうか。

問2 「Googleアカウントの2段階認証を強くする」と「年に一度しか使わない小さなツールの権限を見直す」が候補に挙がりました。どちらを先にすべきでしょうか。

問3 「今の守り」の欄を書く時の注意として、正しいのはどれでしょうか。

出典: - Threat Modeling Manifesto(4つの問いと定義) https://www.threatmodelingmanifesto.org/ - OWASP "Threat Modeling" https://owasp.org/www-community/Threat_Modeling - IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」 https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html