自衛のためのサイバー攻撃の仕組み講座(AI時代・エンジニア水準)
区分1 攻撃者の考え方と、今の地図★★★脅威モデルとは、自分のシステムについて「何を守るのか」「どこから狙われうるのか」「何が起きうるのか」「どう防ぐのか」を、先に書き出して整理した物です。 専門の世界では「スレットモデリング」と呼び、国際的な宣言文(Threat Modeling Manifesto)では、システムの図を元に、安全性やプライバシーの心配事を洗い出すこと、と説明されています。
家の防犯で考えると分かりやすいです。 窓に鍵を付ける前に、「泥棒は玄関と窓とベランダのどこから来そうか」「何を盗まれたら一番困るか」を紙に書きます。 その上で、お金のかからない順に手を打ちます。
先ほどの宣言文は、脅威モデルの作業を4つの問いにまとめています。
この講座の1枚は、この4つの問いを、5つの欄に分けた物です。
| 4つの問い | この講座の欄 |
|---|---|
| 1 何に取り組んでいるか | 守る物 / 入口 |
| 2 何が起こりうるか | 起こりうる攻撃 |
| 3 何をするか | 今の守り / 塞ぐ順番 |
| 4 十分にできたか | 月1回の見直し(区分5で扱います) |
最初に、「失ったら困る物」を書きます。 パソコンやサーバーそのものより、そこにある物と、そこから出来る事を書くのがコツです。
あなたの環境なら、たとえば次のような物が出てきます。
「その物を失う、または他人に使われると、事業にどう響くか」を一言で添えます。 例:名簿が漏れる → お詫びと信用の低下。LINE公式が乗っ取られる → 友だち全員に偽の案内が届く。
次に、「その物に近づける道」を書きます。 入口には、攻撃者が通る道と、自分や仲間が日常的に通る道の両方があります。
漏れなく書くコツは、守る物を1つ決めて、「これにたどり着く道を全部挙げて」と考えることです。 やり方はAIに頼めば手伝ってくれます。頼み方の例:「私の環境は〇〇と△△です。□□(守る物)にたどり着く道を、攻撃者の目線で挙げて。攻撃のやり方ではなく、入口の種類だけ」。
ただし、パスワード、鍵、利用者の名前や記録の中身は、AIに貼り付けないでください。 環境の名前と構成だけで、脅威モデルは作れます。
入口ごとに、「何が起きうるか」を一言で書きます。 攻撃の細かい手口はいりません。区分2〜4で一つずつ仕組みを学ぶので、今は名前と流れで足ります。
No.01で学んだ4段階(入る → 居座る → 広げる → 持ち出す・壊す)のどこの話か、印を付けておくと、塞ぐ順番を決める時に役立ちます。
入口ごとに、いま実際に効いている守りを書きます。 「あるはず」ではなく、実際に確かめた物だけを書きます。
空欄は、そのまま「守りなし」と書きます。 そこが、次の節で順番を付ける対象になります。
塞ぐべき穴がたくさん出てきても、全部は同時にできません。 そこで、次の3つで見て順番を付けます。
被害が大きく、起こりやすく、手間が小さい物が一番先です。 たとえば、メインのGoogleアカウントの2段階認証を強い方式にする、控えを取って戻せることを確かめる、といった物は、手間が小さい割に効きます。
逆に、被害が小さく、起こりにくく、手間が大きい物は後回しで構いません。 「捨てる」のも、脅威モデルの大事な結論の1つです。
講師として受講生に話す時も同じです。 「全部やりましょう」では続かないので、順番を付けて渡します。
卒業課題で書く1枚は、次のような表になります。以下は書き方の見本で、実際の中身はあなたの環境で書き直します。
| 守る物 | 入口 | 起こりうる攻撃 | 今の守り | 塞ぐ順番 |
|---|---|---|---|---|
| Googleアカウント | ログイン画面・届くメール | 乗っ取り(入る) | 2段階認証あり(方式は未確認) | 1:方式を確かめて強くする |
| 顧客名簿 | UTAGEの管理画面 | アカウント乗っ取り(持ち出す) | パスワードのみ | 2:2段階認証を入れる |
| WordPressサイト | 管理画面・プラグイン | 古い部品の弱点を突かれる(入る) | 手動更新 | 3:更新を自動に寄せる |
| 全データ | 暗号化・消去 | ランサム(壊す) | 控えはあるが戻したことがない | 1:実際に戻してみる |
最初の1枚は、この程度の粗さで構いません。 区分ごとに仕組みが分かるたびに、書き直していきます。
○ よくある勘違い:「脅威モデルは大きな会社の物」→ 小さな会社ほど、順番を付けることが大事
○ 関係する単元:No.01(4段階)、No.06(認証の強さ)、No.14(控え)、No.15(見直しと初動)
守る物・入口・起こりうる攻撃・今の守り・塞ぐ順番の5欄を1枚に書く。順番は「被害の大きさ・起こりやすさ・手間」で決める。最初は粗くてよい。
問1 脅威モデルの最初の欄として、本文が勧めているのはどれでしょうか。
問2 「Googleアカウントの2段階認証を強くする」と「年に一度しか使わない小さなツールの権限を見直す」が候補に挙がりました。どちらを先にすべきでしょうか。
問3 「今の守り」の欄を書く時の注意として、正しいのはどれでしょうか。
出典: - Threat Modeling Manifesto(4つの問いと定義) https://www.threatmodelingmanifesto.org/ - OWASP "Threat Modeling" https://owasp.org/www-community/Threat_Modeling - IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」 https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html