自衛のためのサイバー攻撃の仕組み講座(AI時代・エンジニア水準)

区分5 守りを回す仕組みと、学び続ける場所★★

No.15 気づく仕組みと、やられた時の初動

攻撃を完全に防ぐことはできないので、「気づく」ことと「やられた時に慌てず動く」ことを用意しておく単元です。受講生の「もし被害に遭ったら、まず何をすればいいんですか」に、1枚の手順と連絡先で答えられるようになります。この単元は、中身を実際に1枚の紙にして持っておくのが目的です。数字や期限は2026年10月時点の公式資料のものです。
目次
  1. 第0章 前提知識
  2. 第1章 気づく仕組み
  3. 第2章 やられた時の初動を、1枚の手順にする
  4. 第3章 個人情報保護委員会への報告は、要るか
  5. 確認問題

第0章 前提知識

① 検知・初動・復旧 :やられた後の3つの段階

セキュリティの国際的な指針にNIST CSF 2.0(米国の標準技術研究所が出した枠組み)があります。 そこでは守りの仕事を「統治・特定・防御・検知・対応・復旧」の6つに分けています。この単元は後ろの3つにあたります。

家の防火にたとえると、火災報知器が検知、初期消火と避難が初動、建て直しが復旧です。 報知器がなければ、火は大きくなってから初めて気づきます。

② インシデントと、ログ

インシデントは、セキュリティ上の事故や、その疑いのことです。 ログは、いつ・誰が・何をしたかの記録です。防犯カメラの録画のような物で、あとから「何が起きたか」を調べる唯一の材料になります。

③ 言葉の整理

第1章 気づく仕組み

① 気づく経路は、3つある 必ず覚える

被害に気づくきっかけを整理すると、次の3つです。

  1. 自分の側の警報:ログインの通知、バックアップの失敗通知など
  2. 外から指摘される:取引先、警察、JPCERT/CCなどから「御社のサイトが攻撃に使われている」と連絡が来る
  3. 攻撃者から名乗られる:画面に脅迫文が出る

3つ目に気づいた時は、最も遅い段階です。 ここまで来る前に、1つ目の警報で気づく仕組みを、小さくても用意します。

② 小さな会社が置ける、最低限の警報 必ず覚える

大企業向けの監視製品は、この講座では扱いません。 あなたの環境で置ける警報を挙げます。

守る物 警報にするもの 気づけること
Googleアカウント・各サービス 新しい端末・場所からのログインの通知を、見落とさない先に届ける 乗っ取りの入口
WordPress 管理者ユーザーが増えた・プラグインが入った・ファイルが変わった時の通知 改ざん・乗っ取り
VPS ログインの成功通知、ディスクの急な増え方、見慣れない常駐プログラム 居座り・盗み出し
控え 「取れた」の通知。届かない日があることを異常として扱う 控えが静かに止まっていること
請求・広告・SaaS 利用料の急な増え方、見知らぬ連携アプリ 乗っ取った権限の悪用

通知を作るだけでは足りません。 通知が届く先を、普段から見ている場所(LINEや、決まったメール)にしておくことが肝心です。誰も開かない箱に届く警報は、鳴っていないのと同じです。

やり方はAIに頼めばよいです。頼み方の例:「このWordPressで、管理者の追加とプラグインの追加があった時に、私に通知が来る方法を、プラグインを増やしすぎない形で教えて」

③ 気づけないことを前提にする さらっと

検知は完璧にはなりません。 攻撃者は、あなたが見ていない夜や休日に動くことが多いと言われます。

だから、警報とは別に、月1回の点検を決めておきます。 管理者の一覧・使っていないアカウント・入っているプラグイン・控えの復元を見直す、地味な作業です。これはAddnessの型に載せて、毎月出るようにするのが続くコツです。

第2章 やられた時の初動を、1枚の手順にする

① 順番が大事 必ず覚える

慌てて消したり、再起動したりすると、調べるための証拠も、広がりを止めるための手がかりも消えます。 次の順で動きます。公的機関の資料(JPCERT/CCのFAQ、CISAのガイド)を、小さな会社向けに並べ直した物です。

  1. 記録する:時刻、画面に出ている文面を写真で残す。何を操作したかをメモする
  2. 隔離する:ネットワークから切り離す。有線ならケーブルを抜く、Wi-Fiを切る。電源を切るのは最後の手段。切ると、メモリ上の証拠が失われるため(CISAのガイド)
  3. 控えを守る:無事な控えが同じネットワークにあれば、先に切り離す。自動の控えが、無事な控えを上書きすることもある(JPCERT/CC)
  4. 鍵を替える:感染していない別の端末から、管理者のパスワードと、サービスのログインの印を作り直す。感染した端末からは操作しない
  5. 連絡する:次の②の表の順に
  6. 入口を塞いでから戻す:入られた道を塞がずに復旧すると、また入られる。控えから戻す前に、侵入経路を調べて塞ぐ

2〜3は、同時に進めるのではなく、広がっている物から先に切ります。 そして、身代金の要求には返事をしない。交渉も勧められていません(No.14)。

② 連絡先を、先に紙にしておく 必ず覚える

被害の最中に連絡先を探すのは大変です。平時に1枚にまとめておきます。

連絡先 何のために 受け方・注意
警察(最寄りの警察署・都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口) 被害の通報・相談。捜査と、被害拡大防止の助言 警察庁の全国共通のオンライン窓口もある(e-Gov電子申請)。人命に関わる緊急は110番
IPA 情報セキュリティ安心相談窓口 技術的な対処の相談(電話03-5978-7509、平日10〜17時)。ウイルス・不正アクセスの届出も受ける 企業・組織向けは別の窓口を案内される
JPCERT/CC インシデント対応の調整・助言。被害の相談 電話では原則受けない。Webフォームかメール。犯人の特定や捜査は担当外なので、そちらは警察へ
個人情報保護委員会 個人データの漏えい等の報告(第3章) 報告が要るかどうかを、先に判断する
取引先・顧客・スタッフ 影響を受ける人への連絡 誰が何を伝えるかを、先に決めておく
契約している事業者(サーバー会社・保守担当) 隔離・調査・復旧の支援 契約の連絡先を、紙に控える

警察に出す時は、ログ(通信やアクセスの記録)、不正なプログラム、システム構成図などを求められることがあります。 だから、初動で消さずに保全するのです。

○ よくある勘違い:「警察に言うと、業務が止まるのでは」
→ 各県警は、被害組織の意向を尊重し、業務への影響が小さくなるように捜査すると案内しています。
○ よくある勘違い:「再起動すれば直るかも」
→ 再起動は、証拠を消す可能性があります。まず隔離と記録です。
○ 関係する単元:No.14 控え(復旧の土台)

第3章 個人情報保護委員会への報告は、要るか

① 報告が必要になる4つの場合 必ず覚える

お客さんやスタッフの個人情報(個人データ)が、漏れた・消えた・使えなくなった(またはそのおそれがある)時、次の4つのどれかに当たると、個人情報保護委員会への報告が必要です。

  1. 要配慮個人情報が含まれる(病歴や障害などの、特に配慮が要る情報)
  2. 財産的な被害が出るおそれがある(クレジットカード番号など)
  3. 不正の目的で行われたおそれがある(外部から攻撃を受けた場合など)
  4. 本人の数が1,000人を超える

ランサムウェアで個人データが暗号化されて復元できなくなった場合は、3に当たる例として、委員会のページに載っています。 「外に持ち出されたか」が分からなくても、報告が要る場面があるのです。

期限は次の通りです。

2025年10月1日以降、ランサムウェア事案は、政府の共通様式(Excel)で報告することもできます。

本人への通知も、報告とあわせて必要になる場合があります。 詳しい要件は、委員会の案内で確かめてください。この講座は法律の相談ではなく、仕組みと流れをつかむための物です。

② 自分の事業に当てはめる さらっと

報告義務は、会社の大きさではなく、個人データを扱っているかで決まります。 あなたが経営する複数の会社は、会社ごとに別の事業者として考えます。

介護や医療に近いサービスでは、要配慮個人情報を扱うことが多く、小さな事故でも1に当たりえます。 「どれに当たるかが分からない」と感じたら、当たると仮定して、委員会の相談窓口に聞く方が安全です。

気づく経路は、自分の警報・外からの指摘・脅迫文の3つ。初動は「記録→隔離→控えを守る→鍵を替える→連絡→入口を塞いでから戻す」の順。電源は最後に切る。個人データが絡むなら、3〜5日以内の速報が要るかを先に判断する。

確認問題

問1 朝、仕事用のパソコンの画面に「ファイルを暗号化した」という文面が出ていました。最初の動きとして最もよい物はどれですか。

問2 JPCERT/CC への連絡の方法として、正しい物はどれですか。

問3 自社のサーバーがランサムウェアに入られ、お客さんの個人データが暗号化されて復元できなくなりました。持ち出された形跡は見つかっていません。個人情報保護委員会への報告について、正しい物はどれですか。

問4 控えの自動バックアップが毎晩届いていたのに、先週から通知が来なくなりました。どう考えるのが適切ですか。

出典:個人情報保護委員会「漏えい等報告・本人通知」(https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/leakAction/)/警察庁「サイバー事案の通報・相談」(https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/soudan.html)/IPA「情報セキュリティ安心相談窓口」(https://www.ipa.go.jp/security/anshin/about.html)/JPCERT/CC「インシデント報告の届出について」(https://www.jpcert.or.jp/form/)/JPCERT/CC「侵入型ランサムウェア攻撃を受けたら読むFAQ」(https://www.jpcert.or.jp/magazine/security/ransom-faq.html)/CISA「#StopRansomware Guide」(https://www.cisa.gov/stopransomware/ransomware-guide)/NIST「Cybersecurity Framework」(https://www.nist.gov/cyberframework)